作成日:2026.05.14
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※本記事は、作成日または最終更新日時点で公表されている制度情報・数値・資料に基づいて作成しています。
蓄電池は“安さ”だけで選ぶ時代が終わる? 経産省新戦略の3つの数字【国内製造基盤150GWh/年】【売上高3倍】【全固体電池2030年】を解説!
〜「蓄電池」から「電源システム」へ。国の新戦略を、購入・投資・事業判断に使える形で整理します〜
経済産業省は2026年6月2日、2022年8月に策定した「蓄電池産業戦略」を見直し、新たに「蓄電池・電源産業戦略」として改訂しました。
今回の改訂で示された柱は、国内製造基盤150GWh/年、蓄電池関連売上高3倍、全固体電池2030年頃本格実用化の3つです。
ただし、ここで大切なのは、これらが「すでに達成された数字」ではなく、今後に向けた目標だという点です。蓄電池を導入する企業や自治体、BESS事業者にとっては、「価格が安いか」だけでなく、「安全に長く使えるか」「保守できるか」「サプライチェーンが止まらないか」を見る時代に入った、と読むべき内容です。
この記事では、一次情報をもとに、初心者にも分かる言葉で整理しながら、実務で確認すべきポイントまで解説します。
CONTENTS目次
要点まとめ
・経産省は「蓄電池産業戦略」を「蓄電池・電源産業戦略」に改訂しました。
・注目点は、国内150GWh/年、売上高3倍、全固体電池2030年頃の3つです
・蓄電池選びは、価格だけでなく安全性・信頼性・保守・供給安定性を見る方向に進んでいます。
今回決まったこと:「蓄電池」から「蓄電池・電源」へ
1.決定事項は「戦略の改訂」
今回の決定事項は、経産省が「蓄電池産業戦略」を「蓄電池・電源産業戦略」に改訂したことです。背景には、世界市場での過剰供給、サプライチェーンリスク、AIデータセンターや医療・防災分野での電気制御ニーズの高まりがあります。
蓄電池とは、電気をためて必要なときに使う設備です。家庭用、産業用、系統用、EV用などがあります。
電源システムとは、蓄電池本体だけでなく、PCS(電気を変換する装置)、EMS(電気の使い方を管理する仕組み)、通信、監視、安全装置、保守体制まで含めた仕組みです。
今回の改訂は、「電池を安く大量につくる」だけではなく、「社会を止めない電源システムとしてどう使うか」に軸足を広げたものです。
2.3つの数字は「目標」であり、達成済みではない
経産省が示した主な目標は、次の3つです。
1つ目は、2030年から2030年代半ばに、蓄電池・部素材・製造装置の国内製造基盤を150GWh/年にすることです。
2つ目は、日本企業のグローバル市場での蓄電池関連売上高を、2025年から2035年に3倍にすることです。
3つ目は、2030年頃に全固体電池の本格実用化を目指すことです。
ここでのポイントは、「150GWh」も「3倍」も「2030年頃」も、いずれも目標であることです。
政策記事では、これを「達成済み」と書かないことが重要です。
なぜ今、見直したのか:市場は伸びるが、競争は厳しくなった
1.世界市場は2040年に約2.4倍の見込み
経産省の参考資料では、リチウムイオン電池の世界市場は、2025年の23兆円から2035年に46兆円、2040年に55兆円へ成長する見込みとされています。
2025年比で見ると、2035年は約2倍、2040年は約2.4倍です。
一方で、2030年時点の世界全体の蓄電池需要予測は、調査機関により約1,600〜約2,900GWhと差があります。
つまり、市場は伸びる見込みですが、「どれだけ伸びるか」は政策やEV需要、データセンター需要によって変わります。
2.中国の過剰供給とサプライチェーンリスクが重くなった
経産省資料では、中国における過剰供給構造や、サプライチェーンリスクの顕在化が戦略見直しの背景として示されています。
サプライチェーンリスクとは、材料、部品、製造装置、保守部品などの調達が止まるリスクです。蓄電池は長く使う設備なので、導入時に安くても、交換部品や保守体制が弱ければ、長期運用では大きなリスクになります。
実務に効く読み方:安さだけでなく、安全性・信頼性を見る
1.選定基準は「価格+安全性+保守+供給安定性」
今回の戦略では、価格だけでなく、性能・安全性・信頼性・サプライチェーン強靱性に優れる蓄電池が評価される市場環境を整える方向が示されています。
これは、「安い蓄電池は悪い」という意味ではありません。正しくは、安さだけで判断するのは危険になってきたということです。
実務では、次のように見るべきです。
・価格は安いか
・安全性の根拠はあるか
・第三者認証や試験結果はあるか
・保守・交換部品の供給体制はあるか
・サイバーセキュリティ対策はあるか
・事故時の対応や原因調査体制はあるか
蓄電池は、買って終わりの家電ではなく、長く運用する電源インフラです。
2.系統用・重要インフラでは第三者証明やサイバー対策が焦点
経産省資料では、系統用蓄電池の導入補助金や長期脱炭素電源オークションなどで、安全性に関する規格・基準・ガイドラインに基づく第三者による適合性証明、事故事例や対策の提出、サイバーセキュリティ対策、供給途絶リスク対策を求める方向が示されています。
系統用蓄電池とは、電力系統に接続して、電気の需給調整などに使う大型蓄電池です。
第三者証明とは、メーカーや販売会社ではない外部機関が、基準に合っているかを確認することです。
NITEは2026年5月に「公共調達・重要インフラ向け蓄電池システムの安全ガイドライン」の初版を作成したとされ、経産省戦略でも同ガイドラインの普及・アップデートが示されています。
3.ROIは市場収益だけでなく、劣化と保守費を入れて見る
ROIとは、投資したお金に対して、どれだけ利益や効果が得られるかを見る考え方です。蓄電池では、次のように整理できます。
ROI =(電気代削減額 + 市場収益 + 停電回避価値 − 運用費・保守費)÷ 初期投資額
ただし、これは一般的な考え方であり、経産省資料が個別案件のROIを保証しているわけではありません。
落とし穴は、蓄電池の劣化です。劣化とは、充放電や時間の経過で容量・出力が下がることです。
導入時の価格だけでなく、10年後の容量、保証条件、交換費、保守費、市場収益の変動まで入れて見る必要があります。
まだ未定の論点:ここは断定しない
1.補助金・認証要件は個別制度で確認が必要
今回の資料は、国の産業戦略です。すべての補助金要件や認証要件が、この資料だけで確定したわけではありません。
今後の実務では、補助金の公募要領、長期脱炭素電源オークションの募集要綱、認証機関の運用、ガイドライン改訂を個別に確認する必要があります。
2.全固体電池は「2030年頃に本格実用化を目指す」
全固体電池について、経産省は2030年頃の本格実用化を目指すとしています。さらに、2030年代半ばに向けて、需要規模に応じた製造基盤を確立することも示されています。
ただし、これは「2030年に家庭用・産業用蓄電池がすべて全固体電池になる」という意味ではありません。まずは車載用や高付加価値用途など、性能や安全性が強く求められる分野から広がる可能性が高いと見るのが自然です。
3.バッテリーパスポート・再生材利用は段階的に進む
経産省戦略では、欧州バッテリー規則対応に向け、2028〜30年頃に再生材を使用した電池製造・販売を目指すこと、バッテリーパスポートの構築・活用を進めることも示されています。
バッテリーパスポートとは、電池の材料、製造、使用、劣化、回収、リサイクルなどの情報を管理する仕組みです。電池の「履歴書」のようなものです。
この分野は、今後の制度整備や国際ルールとの関係を見ながら進むため、現時点では「段階的に進む論点」として扱うのが正確です。
BESS NEWS読者が今確認すべきこと
1.導入・投資前の確認リスト
BESS事業者、企業の設備担当者、自治体、投資家がまず確認すべき項目は次の通りです。
・安全性の試験・認証はあるか
・発火・類焼対策は説明されているか
・保守体制と交換部品の供給期間は十分か
・サイバーセキュリティ対策は明記されているか
・事故時の原因調査・復旧体制はあるか
・リユース・リサイクル方針はあるか
・劣化時の容量保証や出力保証は明確か
2.調達先に聞くべき質問
導入前には、価格表だけでなく、次の質問を調達先に確認することが重要です。
「この蓄電池は、どの規格やガイドラインを前提に安全性を確認していますか」
「事故や発煙・発火が起きた場合、原因調査と復旧は誰が担いますか」
「10年後に交換部品は供給できますか」
「遠隔監視や通信機能のサイバー対策はどうなっていますか」
「撤去後の回収・リサイクルはどのように行いますか」
この質問に具体的に答えられるかどうかが、長期運用の安心材料になります。
まとめ:蓄電池は“長く安心して使える電源”として選ぶ
今回の経産省新戦略で押さえるべき数字は、150GWh・3倍・2030年頃です。
150GWh/年は、国内の蓄電池・部素材・製造装置の製造基盤を強くする目標です。
売上高3倍は、日本企業がセルだけでなく、パック、モジュール、蓄電システムまで含めて世界市場で成長する目標です。
2030年頃は、全固体電池の本格実用化を目指す時期です。
そして、BESS NEWS読者にとって最も重要なのは、蓄電池の評価軸が変わりつつあることです。
これからは「安いかどうか」だけでなく、「安全に長く使えるか」「保守できるか」「部品供給が続くか」「サイバー対策はあるか」「リサイクルまで考えられているか」で選ぶ時代です。
蓄電池は、単なる電池ではなく、事業と社会を支える電源インフラになっています。
よくある誤解(Q&A)
Q
安い蓄電池は選んではいけないのですか?
A: いいえ。安いこと自体が悪いわけではありません。ただし、価格だけでなく、安全性、認証、保守、部品供給、サイバー対策まで確認する必要があります。
Q
国内150GWh/年はもう達成されたのですか?
A: 達成済みではありません。経産省は、2030年から2030年代半ばに150GWh/年の国内製造基盤を目指すとしています。
Q
全固体電池は2030年に必ず普及しますか?
A: 公式資料の表現は「2030年頃の本格実用化を目指す」です。2030年にすべての蓄電池が全固体電池に置き換わるという意味ではありません。
Q
家庭用蓄電池にも関係ありますか?
A: 今回の資料だけで、家庭用蓄電池の価格や補助金条件がすぐ変わるとは断定できません。ただし、安全性や信頼性を重視する流れは、家庭用・産業用の選定にも影響する可能性があります。
出典(一次情報のみ)
本記事は、経済産業省が2026年6月2日に公表したニュースリリース「『蓄電池産業戦略』を『蓄電池・電源産業戦略』に改訂しました」、同日公表の「蓄電池・電源産業戦略」および「蓄電池・電源産業戦略 参考資料」を参照しています。
本資料は政策戦略の公表資料であり、法令の施行日や補助金公募要領そのものではありません。そのため、本文では「決定」「目標」「見込み」「検討」を分けて記載しています。
経済産業省「『蓄電池産業戦略』を『蓄電池・電源産業戦略』に改訂しました」
https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260602001/20260602001.html公表日: 2026-06-02 / 参照日: 2026-06-09
経済産業省/蓄電池産業戦略推進会議「蓄電池・電源産業戦略」
https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260602001/20260602001-1r.pdf公表日: 2026-06-02 / 参照日: 2026-06-09
経済産業省/蓄電池産業戦略推進会議「蓄電池・電源産業戦略 参考資料」
https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260602001/20260602001-2r.pdf公表日: 2026-06-02 / 参照日: 2026-06-09
監修者
青栁 福雄
Aoyagi fukuo
Energy Link 取締役 COO
系統運用・需要側制御・スマートグリッド分野の実務家。東京電力にて変電所の建設・運用・保守および大口顧客向けエネルギーソリューションに従事。マイエナジー出向時には2002年日韓ワールドカップの複数会場および国際放送センターの電源責任を担当。東光高岳では執行役員としてスマートグリッド事業を統括し、NEDO事業等に参画。2019年にEnergy Linkを創業し、分散型電源の導入・利活用を推進。
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